【エディマン】鵺(ぬえ)の鳴く夜を正しく恐れるために/稲葉剛
『鵺(ぬえ)の鳴く夜を正しく恐れるために――野宿の人びととともに歩んだ20年』
著者は、野宿者支援・生活保護問題で長らく活動を続けている稲葉剛さん。
192ページ、定価は1700円(税別)、エディマン発行、新宿書房発売。
→チラシPDF
装丁画を担当させていただきました。
線譜『新宿鵺(しんじゅくぬえ)』
稲葉さんとは新宿西口地下道で出会いました。1995年かな。
当時彼はまだ東大の院生、色白で大きな瞳と赤い唇が印象的で、可愛いらしいというか、いわゆる「活動家」らしくない感じでした。
新宿西口地下道で段ボールハウスに絵を描いていたのですが、野宿してる人たちをはじめ、そんなにおしゃべりをいっぱいしてたワケではなく、許可をもらった段ボールハウスにただひたすら描き続ける日々でした。
それでも同じ場所に居た人たちとはどこか見えない繋がりみたいなものを感じていました。
特に強制撤去(96年1月24日)直前はただひたすら無言で描いている僕たちに「ありがとな」と声をかけて通り過ぎてく野宿のおっちゃんとかいたり、
「撤去反対」とは一言も言わなかったし、
「撤去反対」のテーマを絵にすることもなかったけど、
撤去される側の「目に見えない言葉にもならない、だけどある意志の繋がり」を強く感じました。
強制撤去以降はいろんな人と話すようになりました。ベルクの副店長兼写真家の迫川尚子さんとは強制撤去直後に出会いました。
稲葉さんとも徐々に話すようになって、彼が企画した東京都市博反対のイベント『都恥博』に参加しました。
通称「B通路」の路上に段ボールを敷き詰め、ライブペインティング。舞踏家の酒井敦さんが白塗りで踊りながら描いている段ボールの上に乗ってきて、僕らは酒井さんの体に絵を描いていきます。
当時は描くというより「ぶちまける」と言ったほうがいいだろうか。
突起物を打楽器にして鳴らす人たち。
混沌とした一体化。
通路、段ボール、突起物、路上にあるものを使った「原初のまつり」のような状態になりました。
画像はその時の模様です。
真ん中で踊っているのが酒井さん、そのすぐ近くにいるのがこれ、僕だと思うんです。
奥の方に写ってるのが突起物。
突起物に写真を貼って写真展もやっていたんですね。
路上を占拠してライブペインティングした巨大な段ボール絵を、西口地下広場、通称「インフォメ前」に移動し、そこに置きっぱなしで何日かかけて完成させました。
その間、僕たちは地下道をアトリエにしたことになります。
それは「制作による路上スクワット」でした。
完成された絵は96年の新宿夏祭りのステージに設置されました。
その直後に僕は突起物に顔を描いて逮捕されます(笑)
そう言えば今思い出したけど、稲葉さんは『都恥博』で「僕を駆り立ててしまったのでは?」とちょっと自責の念をもたれた、みたいなことをおっしゃっていましたわ(笑)
大丈夫ですよ(笑)
突起物に対しては一ヶ月以上前からそこに埴輪を被せる計画をして制作してました。それを実行する日がたまたま『都恥博』の直後だったんです。
いやしかし凄いハードスケジュールでいつ寝てたんだろうって思う(笑)
いろんなことが新宿西口地下道ではありました。
当時あの場所に居た人たちは今でもとても特別です。そんなに話したことなくても「同じ釜の飯を食べた仲」のようなものを感じています。
当然、稲葉剛さんにも思い入れがあります。
そんな新宿西口地下道での様々な出来事や、新宿という大都市の空気感や匂いを思い出しながら描いたのが線譜『新宿鵺(しんじゅくぬえ)』です。(2014年10〜11月)
新宿には巨大な妖怪『鵺(ぬえ)』が居る。
地下道には小さな精霊たちがいっぱい居ました。
僕は精霊たちと絵を描いてました。
いえ、本当なんです。
地下道に棲む精霊たちが僕に寄って来てくれると調子良く絵が描けたんです。
この「霊のようなもの」を感じて以来、僕はずっと「霊のようなもの」を追いかけることになるのです。
稲葉さんと僕の共通してる点は20年前と同じことをしぶとく続けているところだと思ってます。
彼は野宿者支援、僕は絵。地道にコツコツと続けてる。
やってることの具体性は違うけど、「あり方」は似たところあるような気がしてます。
20年経った今、「本」という場で再会できたことを嬉しく思います。
エディマン編集者の原島康晴さん、このような機会を作っていただき有難うございました。
編集者のエディマン・原島康晴さんのブログ
→『鵺(ぬえ)の鳴く夜を正しく恐れるために』その1
→『鵺(ぬえ)の鳴く夜を正しく恐れるために』その2
「その2」では僕について書かれています。
ぜひ、
ひとつお手に取って頂けると幸いです。
(お知らせ)
ドロップアウトTVの遠藤大輔さんと稲葉剛さんが始めたネットTV「ボトムアップチャンネル」。
2014年12月19日(金)20〜21時は稲葉さんの著書『鵺の鳴く夜を正しく恐れるために』の編集者、エディマンの原島康晴さんと僕が出演します。